薬のお話 | イヌリード(診断薬)

【腎臓病患者の現状と対策】

我が国では、慢性腎不全により血液浄化療法を受けている患者は、年々増加のー途をたどり、2007年末には27万人を超えました。毎年3万5千人以上が透析療法に導入されるー方、年間2万5千人程度の透析患者が死亡しており、毎年1万人以上の増加をたどっています。その結果、2000年に20万人前後であった透析患者数が2010年までに30万人に増加すると予想されています。

現在透析患者に費やされる医療費は、年間1兆5千億円程度とされ、国民総医療費の約4%を占めており、今後の透析患者の増加は、医療費を大きく圧迫する要因と考えられます。

また、血液浄化療法により当面の生命リスクは回避されますが、透析患者の平均余命は、同じ年齢の一般国民の約半分でしかないことが明らかになっています。
こうした状況のもと、国民医療費の観点からも、国民の健康維持の観点からも、腎臓疾患に対する対策を強め、透析を必要とする末期腎不全患者を減少させる対策が強く求められています1)。
3万5千人の年間透析導入患者が1ヶ月間導入時期を延ばせることができれば、年間175億円の医療費削減となります。

近年、蛋白尿など腎臓の器質的障害と糸球体濾過量の低下を主要兆候とする「慢性腎臓病(Chronic Renal Disease: CKD)」という概念が確立されました2)。
CKDは透析の原因になるすべての疾患を包括する概念ですが、末期腎不全への進行が多いのみならず心血管系疾患の発症リスクが高いことが知られています3)。
すなわち、透析導入あるいは心筋梗塞などの心血管系疾患の発症予防を目的として確立された疾患概念です。
CKDの末期腎不全への進行を抑制するためには、CKDと診断された早い時期に糸球体濾過量等を把握した上で、血圧の管理、食塩・蛋白摂取量の管理等が必要とされています。

(1),2),3)厚生労働科学特別研究事業 戦略的アウトカムに関する研究 分担研究者研究報告書から引用)

【イヌリンの特性】

糸球体濾過量(GFR;Glomerular Filtration Rate)の測定物質として理想的なものはイヌリンとされています。
その腎クリアランスは、GFRと等しいといわれています。
基本的にGFRは、糸球体基底膜(GBM;Glomerular Basement Membrane)のチャージバリアーとサイズバリアーで規定されています。正常なGBMは、Alb(分子量:69000ダルトン)が濾出しない篩係数を持っていますが、漏れ出すと微量アルブミン尿や蛋白尿となりGBMに何らかの障害が発生しており腎臓疾患があると診断されます。

イヌリンは、血液の中のたんぱく質と結合せず、生物学的活性がありません。
また、イヌリンは体内で代謝されません。
イヌリンは、静脈中に投与されて腎臓で尿中成分として排泄されますが、腎臓の糸球体からのみ排泄され、他の部分からは排泄も再吸収もされないことから糸球体濾過量を測定するための最適な物質です。

イヌリンの原料 チコリ

イヌリード注は、高度に精製したイヌリンを使用し製剤工夫した医薬品で、平均分子量は5500ダルトンで問題なくGBMを通過します。イヌリード注は、腎臓の糸球体濾過量を正確に測定できるGold Standardの検査薬です。

イヌリード注の主原料であるイヌリンは、植物の根から取れる多糖類で、フルクトース(果糖)が多数βグリコシド結合し末端にグルコース(ブドウ糖)が1個結合した構造です。

イヌリンの名称は、キク科オグルマ属(Inula)の植物から抽出したことに由来し、チコリ-等の多年生植物の根やキクイモ、牛蒡、タマネギに多く含まれています。


イヌリン構造式

イヌリン構造式

イヌリンは、果糖が直鎖上に結合し、
その末端にブドウ糖が付加された平均分子量3000~8000の多糖類

【イヌリンクリアランス測定が必要な場合】

イヌリード注は、上述の通り糸球体濾過量を正確に測定できますが、ではどのような場合にイヌリン検査が必要でしょうか。現在改訂中の「CKD診療ガイド」には、イヌリン検査が必要な場合として腎疾患患者における腎機能の正確な評価や腎移植ドナーが腎臓提供する前、腎排泄性薬剤投与前(抗癌剤等)や筋肉量の減少している患者又は少ない患者(筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、長期臥床、四肢切断、乳幼児等)などと記載されています。
このようなご症例には是非イヌリード注をご検討下さい。

弊社は、正確な糸球体濾過機能を測定できるイヌリード注を日本腎臓学会のご要望で開発しました。
イヌリード注が今後慢性腎臓病の患者さんの診断・治療に必ずお役に立てる検査薬であると確信しております。
現在多くの先生方とこのイヌリード注検査の意義や院内システム化のご協力を行っております。
イヌリード注へのご質問は、弊社までご連絡賜りますようお願い申し上げます。各地担当者が対応申し上げます。

イヌリンの特性とGFR(Cin)測定の必要性

イヌリンクリアランス(Cin) は GFR測定のGold Standard です。

< GFR測定物質の必要条件 >

  • 血漿蛋白と結合しない
  • 糸球体基底膜を自由に透過する
  • 尿細管で再吸収・排泄されない
  • 生物学的活性がない
  • 体内で代謝されない

イヌリンは上記条件を
全て満足する理想的な物質です。

イヌリンクリアランス(Cin)測定が必要な場合

  1. 腎疾患患者における腎機能の正確な評価
  2. 腎移植ドナーが腎臓提供する前
  3. 腎排泄性薬剤投与前(抗癌剤等)
  4. 筋肉量の減少している患者又は少ない患者(筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、長期臥床、四肢切断、乳幼児)

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